野田医院

当院の無痛分娩マニュアル

硬膜外麻酔

●適応と禁忌をチェックした後に、説明書で説明して承諾書(無痛分娩と陣痛誘発)を取る。

●分娩室入室

●静脈路確保
□18 Gで確保する。

●輸液
□処置前からビカネイト500ml、ボルベン1,000ml程度の負荷を行う。
□麻酔域が安定したら、500ml/3hで補液を継続する。

●手順
□18 Gでライン確保。出血が見込まれる場合は2本確保。
□ビカネイト500ml+ボルベン1000mlを急速輸液。
□処置前の血圧測定。フルモニター装着。
□原則は左側臥位で、イソジン液で十分に消毒(2回)する。ヨードやアルコールアレル ギーの際はオラネジンを使用。
□キシロカイン注射液0.5%で局所麻酔後にL2/3〜L4/5から硬膜外腔穿刺を行 い、カテーテルを留置(カテーテルの硬膜外腔への留置深度は3〜5cm)し、脳脊髄液 と血液の逆血が無いことを確認した上でファーラー位とする。
□硬膜外麻酔薬投与法<アナペイン注75mg/ 10mlを使用>
テストとしてアナペイン7.5mgを2mlを注入し、麻酔効果や副作用がなければ、30分後にメイン注入としてアナペイン7.5mg注を初回3ml注入。次回以降は疼痛に応じて 1時間以上あけて3ml追加とする。
(注)麻酔中毒所見があれば、下記の対応をとり、無痛分娩を中止する。

●麻酔範囲は、原則的にTh10(臍)以下、最高でもTh7(剣状突起)の無痛域を目指す。

●薬液投与後、片効きを防ぐ為に15分間はファーラー位とし、90/50mmHg以下の 血圧低下があれば、子宮の左方転位と輸液全開とする。

●心拍数・血圧・呼吸数測定は、薬液注入後は、30分までは5分毎、安定すればその後は 15分毎。

●体温は1時間毎にチェック。

●児娩出まで、15分毎で心拍数・血圧・呼吸数測定を行う。

●収縮期血圧>100mmHgor平均動脈圧>70mmHgを維持する。(90/50以下でDr call)

●適切な処置を行っても血圧低下する場合には、積極的に昇圧薬を用いる。

●麻酔評価は、口頭・運動神経ブロック・感覚神経ブロックについて、アナペイン7.5ml分 割投与法では初回注入前・注入後15分~30分で、その後は追加注入前に行う(評価表 は別紙参照)

●分娩終了後、2~4時間以内に硬膜外カテーテル抜去し、その際にはカテーテル先端の断 裂が無いことを肉眼的に確認する。

●低血圧の原因と対応
□交感神経ブロック:麻酔の副作用であり、低血圧が嘔心を誘発する。急速輸液負荷で血圧が下がる場合には、積極的に昇圧薬を用いる。

□仰臥位低血圧症候群:妊娠子宮により下大静脈および腹部大動脈が圧迫されるため。予防のために、血圧が下がってからではなく、脊髄くも膜下麻酔導入後に仰臥位に戻っ た時に、以下をルーチンに行う。
① 仰臥位の体勢をとった際には、下大静脈の圧迫を防ぐために子宮を左側に圧排する。
② 手術台を左に15度程度傾けるか、右側の腰下に枕を入れる。

□昇圧薬の選択と投与のタイミング
① 昇圧剤投与の目安:収縮期血圧<90mmHgor平均動脈圧<60mmHgで考 慮する。
② エフェドリンを準備する
エフェドリン⇒40mg/1ml/A 生食9mlで希釈して全量を10mlとして2ml静注
☆エフェドリンは、交感神経末端よりノルエピネフリンを遊離させる間接作用と α1/β1,2受容体への直接作用があり、血圧と心拍数が上昇する。胎盤を通過 して胎児の代謝を亢進させアシデミアを助長することが指摘されているが、健常 な児では問題になることはない。

□増減を考慮する場合
① 極端な低身長、高身長、極端な肥満、やせ
② 麻酔効果

●穿刺時の体位
□左側臥位(帝王切開は右側臥位が望ましいが、他の麻酔と統一する)
□穿刺後にはファーラー位となるが、仰臥位低血圧症候群を防ぐ為に子宮左方転移を行い 若干左下側臥位となるので、麻酔が左右差なく広がるように配慮する。

●穿刺針
□病院に既存の硬膜外麻酔キットを使用する。
□妊婦はPDPH(硬膜穿刺後頭痛)のハイリスクであり、さらに術後頭痛で動けない場 合には、育児への悪影響やマタニティブルー発症の可能性がある為、硬膜穿破に注意する。
□可能な限り、穿刺回数を増やさないように心がける。

●酸素投与
□ルーティンの投与は不要。
□母体への酸素投与が胎児のPaO2を有意に上昇させることはない。
□妊婦は機能的残気量、呼吸予備能が低下している為、高位麻酔や呼吸停止を早期発見す る為に、酸素投与でSpO2を100%にしない。

●禁忌
① 妊婦が拒否する場合  ② 穿刺部位や全身に感染がある場合 ③ 出血傾向、凝固止血異常(血小板<10万、抗血小板薬や抗凝固剤投与中) ④ 心疾患(大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症等) ⑤ 神経疾患(進行性脊髄病変) ⑥ 循環血液量の高度減少(脱水、飢餓状態)

●レベルの確認
□麻酔後循環動態が安定してから行う。
□必要な麻酔域はTh10であり、最高でもTh7(剣状突起)以下

硬膜外麻酔の合併症と対応

合併症が発生し、当院で対応できない場合(低血圧の遷延、意識障害、神経興奮状態、不整 脈)には都城医療センター(0986-23-4111)に連絡し救急車にて母体搬送を行う。

●低血圧:上記の対応を行う。

●効果不足:効果が得られない場合には、医師へ報告し再穿刺を行う。
Th10迄の効果が得られない場合には3ml追加する。
左右差がある場合には片効きの可能性を考慮し、まずカテーテルを1cm引き戻 した上で、次回投与を行う。

●硬膜穿破:椎間を変更して再穿刺を行う。
その際にはテストとしてアナペイン7.5mg2ml注入して30分間麻酔効果を 評価し、効果がなければメイン注入を注入する。逆に効果があれば中止。

●脊髄くも膜下麻酔:注入早期からの肢脱力・血圧低下・心拍数上昇の場合には無痛分娩を 中止。

●血管内誤注入・中毒:麻酔薬注入時にBP、 HR上昇、不整脈
→神経興奮状態(めまい、しびれ、ふらつき、耳鳴り、視聴覚障害、多弁、興奮、痙攣)
→心臓血管症状(低血圧、不整脈、心停止)
心停止1.4/10000 死亡1/10000 痙攣16/10000
救急カートを準備し、挿管準備を行い、直ちに都城医療センターと救急隊及びDrカー へ連絡する。

●神経圧迫:下肢や側腹部の違和感
カテーテルの位置を1cmずらし、それでも違和感があれば再度穿刺からやり直し。

●悪心嘔吐
メトクロプラミド(プリンペラン)1A(10mg)を適宜投与。

●呼吸苦
□高位硬膜外麻酔となった場合、呼吸補助筋の運動障害をきたして胸式呼吸が困難となる。
□多くの女性は胸式呼吸を行う為、高位硬膜外麻酔によって呼吸苦を訴えることがある。
□患者に声をかけ、呼吸苦の有無を確認する。呼吸苦が出現した場合には、腹式呼吸を促す。
□呼吸法の指導により改善しなければSpO2モニタリングを厳密に行う。

●全脊麻
□C4以上に麻酔域が広がった場合には、都城医療センター連絡し援助を依頼し、必要に 応じて補助呼吸または気管挿管全身麻酔に切り換えて、麻酔が切れるのを待つ。

●硬膜外麻酔中の疼痛、不穏
□疼痛の原因を検索して適切に対応する。麻酔効果不十分であれば、無痛分娩を終了する か、再度穿刺からやり直す。
□不穏状態の場合には、都城医療センターへ連絡し相談とする。

●硬膜穿刺後頭痛(postdural puncture headache: PDPH)
□脊椎麻酔後や硬膜外麻酔時の硬膜穿破時のPDPHの発生頻度は、穿破して針の形状と 太さに関係する。(細<太)
□PDPHは明らかな誤穿刺がなくても起こりうる。また誤穿刺後の頭痛があっても必ず しもPDPHによるとは限らない。

※PDPHの鑑別診断
1.気脳症(空気が入ること)
2.子癇発作
3.頭蓋内出血
4.PRES(可逆性白質脳症:頭痛、視野異常、けいれん等を呈し、後頭葉や頭 頂葉を中心とした脳浮腫を認める一過性の症候群)
5.髄膜炎
6.脳梗塞

※PDPHの特徴
1.前頭部および後頭部の締め付けられるような痛みが特徴。
2.後部硬直を伴うことがある。
3.吐き気、嘔吐、難聴、めまい、複視などを伴うことがある。
4.立位や坐位で悪化。仰臥位で改善。
5.硬膜穿刺後頭痛は脊髄くも膜下麻酔で起こりうる合併症であるが、術中に強い 頭痛を訴えることはない。術中に突然頭痛を訴える場合は、頭蓋内病変を鑑別 する。
※PDPHの自然経過
・おおむね硬膜穿刺から72 時間以内に発症するが、さらに遅れて発症することもある。
・約5~10日間で自然寛解する。

□PDPHの治療法
・保存的療法を選択する場合は、患者にPDPHの一般的経過を説明して不安を取り除く。
・輸液負荷 尿量を増加させ、排尿のために余分な頭痛を経験させるかもしれない。
・ベッド上安静 PDPHからの回復を促進させるわけではない。別の合併症のリスクを上げうる。患者の自発的な行動まで制限する必要はない。
・カフェイン 一時的な効果が期待されるが、治療量(500mg)では痙攣の閾値を下げる。
・非ステロイド性抗炎症薬:十分な効果は期待できない。
・硬膜外自己血パッチ 最も信頼できる治療法
硬膜外腔へ血液を注入することにより、脳脊髄の圧が上昇し症状を改善する。効果は実施直後から認められる。注入された血液が凝固し、穿刺孔をふさいで髄液の漏出を減らすが、効果は遅発性。

●分娩障害
◦微弱陣痛(無痛分娩時の分娩第2期遷延の診断は、初産婦3時間以上、経産婦2時間以上)
◦回旋異常
◦排尿困難(麻酔中は尿意減弱の為、膀胱留置カテーテルを挿入)
◦麻酔薬投与時の胎児心拍数の変化(一過性徐脈、細変動の減少)に留意する。

麻酔状態の評価  初回注入前・注入後15分~30分で、その後は追加注入前に行う。

★鎮静スコア
0=意識清明 1=名前の呼びかけで開眼 2=刺激で開眼 3=刺激に反応しない S=通常睡眠

★運動神経ブロック評価(Bromage スケール)
0=膝を伸ばしたまま、足の挙上は可能 1=膝の屈曲は可能だが、伸ばしたまま足の挙上は不可能 2=膝の屈曲は不可能だが、足首の屈曲は可能 3=足が全く動かない

★運動神経ブロック評価(コールドテスト)
氷嚢またはエタノールで前額部に触れ、同じ感覚の部分を探す。 同じくらいの冷たさを感じた部分より一つ下のレベルをブロック範囲とする。
T4=乳頭の高さ T6=剣状突起 T8=肋骨弓下端 T10=臍 T12=鼠径部

硬膜外無痛分娩の合併症と頻度(%)

合併症 頻 度
低血圧 17〜37
硬膜穿刺後頭痛 1〜2
背部痛 30〜40
不成功 1.5〜10
悪 心 1〜2.4
搔 痒 1.3
硬膜下注入 0.1〜0.8
血管内誤注入 5〜10
痙 攣 0.02
クモ膜下誤注入 <1.6〜2.9
全脊髄クモ膜下麻酔 0.02
放散痛(4〜6週間持続) 0.05〜0.42
運動神経麻痺 0〜0.14
硬膜外血腫 非常に稀
硬膜外腫瘍 0.0015